お知らせ
世界禁煙デーにあたって
呼吸器学会
世界禁煙デーにあたって
日本呼吸器学会は、世界禁煙デー(World No Tobacco Day)に賛同し、応援します
毎年5月31日は、世界保健機構(WHO)が定めた世界禁煙デー(World No Tobacco Day)です。喫煙は、がん、心筋梗塞、脳卒中など多くの疾患との関連が明らかになっており、WHOなどの最近の試算によると、日本でタバコが原因とされる死亡数は、2007(平成19)年には128,900人に達しています。これは20年で約2倍に増加しており、この傾向はさらに続くことが予想されています。1989年にWHOは毎年5月31日を「世界禁煙デー」と定め、喫煙しないことが一般的な社会習慣となることを目指して様々な活動を展開しています。日本呼吸器学会ではタバコの有害性や禁煙の重要性に関する資材の作成や啓発活動などを行ってきました。これからも、毎日がタバコのない日になるよう、そして望むと望まざるとにかかわらず全ての受動喫煙がなくなるよう、努力してまいります。
今年のテーマは、「Tobacco:Threat to our environment (タバコは地球環境への脅威)」です
発展途上国でのタバコ製造過程で、葉タバコの乾燥には大量の薪が使用されるため、多くの木々が伐採され森林破壊が進んでいます。世界で薪として燃やされる木材の80%は、葉タバコ乾燥用に使用されています。毎年、2,000km2(東京都とほぼ同じ面積)の森林が地球上から消滅しているのです。その薪の燃焼とタバコの燃焼による大気汚染、さらにタバコ葉の農場で使用される農薬による土壌汚染や水質汚濁が発生します。また、タバコのフィルターは人工的に作られた合成繊維なので自然分解されるまでに長い期間が必要です。路上に捨てられた吸い殻は排水路から川へ、川から海に運ばれ、海洋汚染に繋がり、それを食べた水産物を私達が食べることになります。このように、タバコはその製造から消費にいたる過程で、陸・海・空すべての環境破壊を引き起こしているのです。
図1. タバコによる環境破壊 https://www.who.int/campaigns/world-no-tobacco-day/2022
図2.タバコの製造のために伐採される森林は毎年20万ヘクタール(2,000km2)(WHO)
カーボベルデ共和国(国土面積、世界166位)の4,030km2の半分
東京都(2,187km2)とほぼ同じ面積の森林が消失している。
図3.海洋生物への影響1
図4.海洋生物への影響2 https://fctc.who.int/
タバコは新型コロナウイルス感染のリスクを高めます
COVID-19によって、日本国内だけで約3万人、世界では620万人を超える方が命を落としています。これまでの研究から、喫煙者では新型コロナウイルス感染のリスクを2.1倍に、感染後に重症化するリスクを1.9倍に上げることが示されています。そのメカニズムについては、ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に利用する細胞表面のACE2という分子が喫煙によって増えるためだと考えられています。喫煙者本人だけでなく、周囲の人でも受動喫煙によってウィルスの侵入口となるACE2が増えるため、感染者の重症化やさらなる感染拡大につながる可能性が懸念されます。
肺は、"環境を映す鏡" です
肺は呼吸をするために外界に開かれた臓器です。1日に1万リットル以上の空気を吸い込み、生命の維持に必要な酸素を体内に取り込み二酸化炭素を呼出しています。肺の最深部には5億個をこえる肺胞があり、50~100 m2の広大な表面積を介して毛細血管と接し、酸素の取り込みと二酸化炭素の排出(ガス交換)を行っています。吸入される外気と毛細血管の血液は、わずか0.3 mm ほどの厚さの組織により隔てられているだけです。このように精緻な構造で外界と接する肺は、吸入する空気に有害物質や微粒子が含まれていれば、また、そのような気体を慢性的に吸入し続けていれば、いずれ何らかの健康被害をこうむることは容易に想像できると思います。身近な問題として、工場や自動車からの排気ガスによる大気汚染やアスベストが健康被害をもたらしたことは、よくご存知と思います。肺は"環境を映す鏡"、と例えられる由縁です。健康のためには、クリーンな空気を吸いましょう!
あなたの呼吸をタバコに奪われてはいけない。タバコではなく健康を選びましょう!
令和4年5月31日
日本呼吸器学会 理事長
平井 豊博