COVID-19 FAQ広場
FAQ広場は、新型コロナウイルス感染症に関する情報交換を目的としており、呼吸器学会員をはじめ医療従事者の方々に幅広くご利用いただきたいと思います。
Q61. オミクロン株においての、中和抗体製剤と抗ウイルス薬の使い分けあるいは併用使用の指針がありましたら教えてください。
治療
回答
オミクロン株に有効な薬剤について
1) 中和抗体製剤
現在本邦で使用可能な中和抗体製剤は、カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブの2種類です。査読前論文によると、オミクロン株には前者はほぼ無効であり、後者はデルタ株に対する効果よりやや劣るものの十分な効果があることが分かっています。ただし、以下に示すように、臨床試験ではワクチンを接種していない重症化リスクを持った軽症例に対して有効性が示されているため、それに該当しない場合の効果については不明です。ワクチンによる重症化抑制効果があるため、ワクチン接種者への投与は臨床試験で示された効果より劣ることが考えられます。
2) 抗ウイルス薬
現在本邦で使用可能な抗ウイルス薬には、レムデシビル(点滴静注)、モルヌピラビル(内服)があり、また承認申請中の抗ウイルス薬としてニルマトレルビル・リトナビル(内服)があります。中和抗体製剤と同様にこれらの臨床試験ではワクチンを接種していない重症化リスクを持った軽症~中等症Ⅰ相当の症例に対して有効性が示されているため、それに該当しない場合の効果については不明です。オミクロン株流行下での臨床試験のエビデンスはまだありませんが、in vitroのデータではこれら3つの薬剤のオミクロン株への抗ウイルス活性は以前から知られる変異株であるアルファ株、ベータ株、デルタ株への活性とほぼ同等であると報告されており(文献1,2)、オミクロン株への臨床効果も期待できると考えられています。
【オミクロン株流行下において、中和抗体製剤と抗ウイルス薬、どちらを使うべき?】(軽症~中等症Ⅰ)
2022/2/7現在、オミクロン株に効果が期待できる中和抗体製剤(ソトロビマブ)、抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル)においては、発症早期の軽症~中等症Ⅰ相当でワクチン未接種の重症化リスクを持ったCOVID-19患者を対象とした臨床試験にて投与28または29日以内の入院または死亡の割合と相対リスク減少割合は次のように報告されています:
- COMET-ICE試験(発症5日以内を対象)(文献3):
1.0% (ソトロビマブ群) vs 7.2% (プラセボ群)
→ソトロビマブ投与により入院または死亡が85%減少 - PINETREE試験(発症7日以内を対象)(文献4):
0.7% (レムデシビル群) vs 5.3% (プラセボ群)
→レムデシビル投与(3日間点滴静注)により入院または死亡が87%減少 - MOVe-OUT試験(発症5日以内を対象)(文献5):
6.8% (モルヌピラビル群) vs 9.7% (プラセボ群)
→モルヌピラビル投与(5日間内服)により入院または死亡が31%減少
また、承認申請中ニルマトレルビル・リトナビルの臨床試験では次のように報告されています:
- EPIC-HR試験(発症5日以内を対象)(文献6):
0.8% (ニルマトレルビル・リトナビル群) vs 7.0% (プラセボ群)
→ニルマトレルビル・リトナビル投与(5日間内服)により入院または死亡が89%減少
試験が行われた時期、ウイルス株の違い、地域の医療事情の問題などがあり、単純に試験結果を横並びにして解釈することは難しく、これらの薬剤の直接比較をした試験がないために、どれが効果的か?と結論をつけることは困難です。しかし、内服薬ではニルマトレルビル・リトナビルはソトロビマブ、レムデシビルと同等の結果を得ているため、NIHのガイドラインではモルヌピラビルよりも期待できると考えられています(文献7)。
実際に処方する際には、ソトロビマブとレムデシビルは原則入院での投与になること、ニルマトレルビル・リトナビルは併用禁忌薬が多いこと、モルヌピラビルは妊婦/授乳婦には禁忌であること、その地域での病床逼迫状況、薬剤の供給が不足していないかなどの情報も総合的に勘案して選択をせざるを得ないと考えます。「抗ウイルス療法は発症早期(5日以内)に!」を達成できるように、その地域で関係者どうしの情報共有と連携を取りながら状況にあわせて考えていくのがよいでしょう。
【中和抗体製剤と抗ウイルス薬の併用は有効か?】
中和抗体製剤と抗ウイルス薬は、その機序が異なることから併用する意義はあると考えられます。しかし、それぞれを使用した場合の有効率が単純に相加されるか、または有害事象の可能性についてはエビデンスがありません。例えば、既述のようにソトロビマブの投与のみで、投与29日目までの入院または死亡が85%低下するという高い効果が示されています。これに抗ウイルス薬を加えることで、効果が単純に相加されることは考えにくいかもしれません。中和抗体製剤と抗ウイルス薬の併用する場合の効果および有害事象については、ワクチン接種歴の有無を考慮した臨床試験が今後必要になります。
参考文献
文献1:Takashita E, Kinoshita N, Yamayoshi S, et al. Efficacy of Antibodies and Antiviral Drugs against Covid-19 Omicron Variant. N Engl J Med. 2022. DOI: 10.1056/NEJMc2119407
文献2:Vangeel L, Chiu W, De Jonghe S, et al. Remdesivir, Molnupiravir and Nirmatrelvir remain active against SARS-CoV-2 Omicron and other variants of concern. Antiviral Res. 2022;198:105252.
文献3:Gupta A, Gonzalez-Rojas Y, Juarez E, et al. Early Treatment for Covid-19 with SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody Sotrovimab. N Engl J Med. 2021;385:1941-1950.
文献4:Gottlieb RL, Vaca CE, Paredes R, et al. Early Remdesivir to Prevent Progression to Severe Covid-19 in Outpatients. N Engl J Med. 2022;386:305-315.
文献5:Jayk Bernal A, Gomes da Silva MM, Musungaie DB, et al. Molnupiravir for Oral Treatment of Covid-19 in Nonhospitalized Patients. N Engl J Med. 2021. DOI: 10.1056/NEJMoa2116044
文献6:Food and Drug Administration. Fact sheet for healthcare providers: emergency use authorization for Paxlovid. 2021. Available at: https://www.fda.gov/media/155050/download. (Accessed on 2/7/2022)
文献7:NIH COVID-19 Treatment Guidelines. The COVID-19 Treatment Guidelines Panel's Statement on Therapies for High-Risk, Nonhospitalized Patients With Mild to Moderate COVID-19. Available at: https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/statement-on-therapies-for-high-risk-nonhospitalized-patients/?utm_campaign=highlights (Accessed on 2/8/2022)
(回答日:2022/2/8)