Q28. SARS-CoV-2ウイルス感染予防に効果的なうがい液などあるでしょうか。

治療 2021年06月13日

回答

　SARS-CoV-2ウイルス感染予防、という意味には、COVID-19患者さんのウイルス排出量を減らして感染力を減らす、という意味と、健常者がSARS-CoV-2ウイルスに感染することを予防する、という二つの意味が含まれると思われます。
　前者については実験室レベルのデータでは各種うがい液や歯磨きなどでもウイルスを減らせるとした報告は多数ありますが、ヒトを対象にしたランダム化試験はわずかしかありません。COVID-19患者を対象に米国で実施されたオープンラベルのランダム化試験でグルコン酸クロルヘキシジン液でのうがいで咽頭ぬぐいPCRの陰性化率が大きく上昇した報告がありますが、周囲への感染予防効果と患者の予後改善は示されていません（参考文献1）。さらには日本ではグルコン酸クロルヘキシジン液をうがい液として使用することはできませんし濃度を間違えると事故になりますので決して実施しないようにしてください。フランスで実施された小規模なオープンラベルのランダム化試験でCOVID-19患者にポビドンヨード液でのうがいと鼻腔スプレーを併用した試験がありますが、経時的に7日目まで実施した定量的PCRでコントロール群と比べてウイルス量に有意差はありませんでした（参考文献2）。一方で、うがい後6時間という短い観察期間ならポビドンヨード液うがいで唾液PCRでのウイルス量が減少したという報告もあります（参考文献3）。
　健常者の感染予防効果については、シンガポールからCOVID-19患者との濃厚接触者3037人を組み入れたオープンラベルのランダム化試験があり、うがいではないですがポビドンヨードの咽頭スプレーを42日間にわたり使用することでコントロールであるビタミンC内服と比べてSARS-CoV-2感染の絶対リスクを24%減少させています（参考文献4）。副作用による中止は2%しかなかったと報告されていますが、長期間のヨード製剤使用に伴う安全性の評価は不十分です。日本甲状腺学会、日本内分泌学会、日本内分泌外科学会では合同で、新型コロナウイルス感染症へのヨウ素系うがい薬使用について見解を発表しており、ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能異常のリスクに言及し5～6日使用しても症状がよくならないときは使用を中止することを推奨しています（参考文献5）。
　これらを受けて、現時点で検索しえた範囲では各国や国際機関のガイドラインや手引きでSARS-CoV-2感染予防のためにうがいを推奨しているものはありません。

1）Y Hanna Huang. Use of chlorhexidine to eradicate oropharyngeal SARS-CoV-2 in COVID-19 patients. J Med Virol. 2021 Jul;93(7):4370-4373.

2）Guenezan J, et al. Povidone Iodine Mouthwash, Gargle, and Nasal Spray to Reduce Nasopharyngeal Viral Load in Patients With COVID-19: A Randomized Clinical Trial. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2021 Apr 1;147(4):400-401.

3）Chaminda J Seneviratne et al. Efficacy of commercial mouth-rinses on SARS-CoV-2 viral load in saliva: randomized control trial in Singapore Infection. 2021 Apr;49(2):305-311.

4）Raymond Chee Seong Seet, et al. Positive impact of oral hydroxychloroquine and povidone-iodine throat spray for COVID-19 prophylaxis: An open-label randomized trial. Int J Infect Dis. 2021 May;106:314-322.

5）新型コロナウイルス感染症へのヨウ素系うがい薬の使用についての見解. 日本甲状腺学会, 日本内分泌学会, 日本内分泌外科学会.
http://www.japanthyroid.jp/public/img/news/20200807_ugai.pdf

(accessed on June 13, 2021)

（回答日：2021/6/13）