COVID-19 FAQ広場
FAQ広場は、新型コロナウイルス感染症に関する情報交換を目的としており、呼吸器学会員をはじめ医療従事者の方々に幅広くご利用いただきたいと思います。
Q9. COVID-19に対するステロイドの種類、投与開始時期、投与期間、投与量について、現時点でのエビデンスを教えてください
治療
回答
COVID-19に対するステロイド療法は、2020年7月にオンライン上で公表されたRECOVERY試験の結果に基づいて推奨されているのが現状です(N Engl J Med. 2021 Feb 25;384(8):693-704.)。この試験では、デキサメサゾン6mg/dayを7-10日間投与する群と投与しない群にランダムに割り付けて28日以内の死亡を比較しています。この試験結果が発表されて以降、多くのCOVID-19に対するステロイドの効果を検証する前向き介入試験が相次いで中止になり、同年9月2日にはThe WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Groupによって、複数のランダム化比較試験(RCT)を用いたメタ・アナリシスの結果が発表され(JAMA. 2020;324(13):1330-1341.)、同時にWHOからCorticosteroids for COVID-19 Living guidanceが公開されました。その内容は、人工呼吸器使用例や酸素投与のみ使用例には、デキサメサゾン6mg/dayの7-10日間投与を推奨し、酸素投与を必要としない例には投与しないことを推奨しています。
以下、各項目に分けてお答えします。
ステロイドの種類
RECOVERY試験以外に大規模なランダム化比較試験結果が示されていない現状では、デキサメサゾンがエビデンスレベルとしては高いことになります。ステロイドの種類を比較したRCTの報告は限られています。35名のデキサメサゾン8mg/dayと65名のメチルプレドニゾロン1mg/kg/dayの5日間投与を比較した試験がありますが、投与後の酸素化や炎症反応の改善に有意差がなかったことを報告しています(Ann Med Surg. 2020;60:413-416.)。
エキスパートオピニオン
RECOVERY試験の結果公表後に中止となったRCTでは、ハイドロコルチゾンやメチルプレドニゾロンを使用しているものがあります。サンプル数が少なく十分なエビデンスとは言えませんが、おおよそ同力価であればデキサメサゾンと似た結果になる可能性が推測されます。
ステロイドの開始時期
明確なエビデンスは存在ません。RECOVERY試験では、人工呼吸器使用例や酸素投与のみ使用例に対してデキサメサゾンが有効であることを示す一方で、酸素投与を必要としない例には無効または有害である可能性を示しています。
エキスパートオピニオン
COVID-19は、発症後の時間経過で悪化することが分かっています。軽症と診断される時期に早期にステロイドを投与すると、その予後を悪化させることが推測されます。通常、感染から7日間はウイルスが増殖する期間であり、この後に異常免疫、すなわちサイトカインストームによって重症化すると考えられています。そのため、ステロイドは感染7日以降に投与することが望ましいとする考え方がありますが、WHO REACT Working Groupによるサブ解析ではその有意差は見られなかったとされています。現状では、少なくとも酸素投与を必要としない症例には投与すべきでなく、人工呼吸器や酸素投与が必要となった症例では、感染7日目以内であっても投与を検討することが妥当と考えられます。悪化の速度は一律ではないため、慎重に経過を観察しながら投与のタイミングを逃さないようにすることが肝要です。
ステロイドの投与量
既述のようにRECOVERY試験のデザインに準じて、デキサメサゾンの6mg/dayが最もエビデンスレベルが高いことになります。酸素を必要とするCOVID-19患者に対して、メチルプレドニゾロン125mgの3日間投与を行った群と行わなかった群に、ランダムに割り付けた試験が報告されています(Eur Respir J. 2020;56(6).)。サンプル数は各群34名と限られていますが、死亡率はメチルプレドニゾロン群が5.9%に対し、プラセボ群が42.9%と比較的大きな有意差が示されています。
エキスパートオピニオン
エビデンスレベルに準じると、デキサメサゾンの6mg/dayを選択することになりますが、上記の高用量のメチルプレドニゾロンを用いた試験を考慮すると、デキサメサゾン6mgではステロイドの力価として不足する症例の存在を考えます。病態に応じて、ステロイドの増量またはパルス療法を検討します。ステロイドパルス療法を行った後の後療法については、病勢をみながら漸減することを考慮します。
ステロイドの投与期間
RECOVERY試験のデザインに準じて7-10日間が最もエビデンスレベルが高いのが現状です。WHO REACT Working GroupによるRCT7報のメタ・アナリシスでは、投与期間は5-14日間としている試験を紹介しています。
エキスパートオピニオン
長期に投与することは、その後の生じるかもしれない肺の線維化を抑制する可能性がありますが、同時に他の感染症や血栓化の危険性が増加します。投与開始時期によって投与期間も調整する必要がありそうですが、それらを示したエビデンスは存在しません。パルス後に漸減するのであれば比較的長期になりますが、数日の間隔で早めに漸減することも可能と考えます。
(回答日:2021/3/11)