COVID-19 FAQ広場

FAQ広場は、新型コロナウイルス感染症に関する情報交換を目的としており、呼吸器学会員をはじめ医療従事者の方々に幅広くご利用いただきたいと思います。

Q26. SARS-CoV-2ウイルスの病原性は従来のコロナウイルスやインフルエンザウイルスと比較してどのような特徴がありますか。SARS-CoV-2ウイルス量は発症前後でいつが最も多いのでしょうか。COVID-19で特徴的な診察所見があれば教えてください。治療介入が必要なCOVID-19患者は全体の何割ほどでしょうか。

病態

回答

まずSARS-CoV-2ウイルス排出量のピークは他のコロナウイルスやインフルエンザウイルスよりもかなり早いとされ、咽頭スワブでは発症直後で、感染力のピークも発症前後0.9日と報告されています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32296168/)。SARS-CoV-2とインフルエンザウイルスの病原性の違いは、SARS-CoV-2の潜伏期間は平均5.6日と比較的長いこと、感染していても30-50%は無症状にもかかわらず、感染力は強く、肺炎の発症率も高く、20%が重症化して致死率も3-4%と高いことが挙げられます。病原性の違いは感染細胞と免疫応答の違いによるところが大きいとされます。特徴的な診察時の所見にも関係しますが、半数近くに嗅覚・味覚障害を来すとされるのはSARS-CoV-2による感染の特徴で、他のコロナウイルスやインフルエンザウイルスと違う点ですが、ウイルスの受容体を発現する細胞の分布と関係していると考えられます。すなわち、SARS-CoV-2の受容体はACE2が代表的ですが、従来のコロナウイルスには異なる受容体を介して感染するものもあり、インフルエンザウイルスはシアル酸糖鎖を受容体として感染します。また、受容体分布だけではなく、SARS-CoV-2に伴う免疫応答も関与すると考えられており、IL-6の上昇などの炎症に伴う変化が嗅覚・味覚異常と関連するとも考えられています(https://www.nature.com/articles/d41586-021-00055-6)診察時の特徴として、「silent hypoxia」(https://en.wikipedia.org/wiki/Silent_hypoxia)とも言われるように呼吸不全にもかかわらず発熱や自覚症状が乏しいことがあるのも留意すべきポイントです。自覚症状がないという意味では「happy hypoxia」とも表現されたことがありますが(https://www.science.org/doi/10.1126/science.368.6490.455)、医療介入の必要な特徴でもあって誤解を避けたい表現と思います。そのメカニズムはいろいろ指摘されていますが、ブルージャーナル(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine)に総説と公開での質疑応答がでて議論していますので参考になります(https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/rccm.202006-2157CP ;
https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/rccm.202006-2521LE ;
https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/rccm.202007-2940LE)。
現場で診療する立場としては、過剰診療にならないようにという葛藤は常にありますが、「silent hypoxia」を見つけるには、酸素飽和度(SpO2)の測定は万能ではないものの、外来で簡単に測定できるのでスクリーニングには向いています。病院等であれば動脈血ガス検査も有用です。自験例になりますが、別疾患で通院されていた認知症のご高齢患者さんで息切れの訴えも発熱も咳もなかったけれど、いつもと様子が違う、という同居家族の受診希望があり、スクリーニングと思って測定した酸素飽和度(SpO2)が普段よりも低いSpO2(90%前後)だったことがきっかけで、画像検査をして初めてCOVID-19を疑えて帰さずに済んだケースもありましたが、こういったことは珍しいことではないと思います。最後に、治療介入が必要な患者さんの割合ですが、軽症の場合は重症化に注意しつつも経過観察が中心になりますが、全体の20%では何らかの治療介入が必要になると考えられます。

(回答日:2021/6/12)