呼吸器の病気

I.その他

原発性肺胞低換気症候群

げんぱつせいはいほうていかんきしょうこうぐん

概要

 肺・胸郭・神経・筋肉系に明らかな異常が認められないにもかかわらず、血液中の酸素が低下し、二酸化炭素が多くなる病気です。

疫学

 血液中の二酸化炭素が高く、酸素が低下しているために、自宅での療養治療が必要な患者数は全国で5000名程度と推定されています。

発症のメカニズム

 呼吸は脳(幹)で調節され、肺で行われます。また、肺(胸郭)が膨らんだり縮んだりするのは、横隔膜や筋肉により行われます。呼吸により、空気中の酸素を取り入れて、体の中で産生された二酸化炭素を排出し、ガス交換が行われます。このガス交換に役立つ換気を「肺胞換気」と呼んでいます。通常、呼吸に関連する肺・胸郭・神経・筋肉系に何らかの異常を認めると肺胞換気が低下し、睡眠中により悪化します。原発性肺胞低換気症候群では、肺・胸郭・神経・筋肉系に明らかな異常がないにもかかわらず、肺胞換気が低下しており、原因としては呼吸の化学(代謝)調節系の異常(不全)が関わっていると推定されています。

症状

 不眠や起床時の頭痛、日中の眠気などがみられます。病状が進行すると、呼吸困難や全身のむくみなども認められます。

診断

 血液中の酸素は低下し、二酸化炭素は多くなっていますが、肺には異常を認めませんので、肺活量などの呼吸機能検査値は正常です。また、神経や筋肉にも異常はみられません。ただし、意識的に大きな呼吸を繰り返して行うと、血液中の二酸化炭素を下げることができます。夜間睡眠中の検査(ポリソムノグラフィー)にて、夜間睡眠中に主に換気の低下や血中酸素の低下を認めるものをフェノタイプA、夜間睡眠中に主に無呼吸を認めるものをフェノタイプBとしています。

治療

 現時点では、病気の根本的な治療法はありませんが、人工呼吸器を用いて換気を補助することで、血液中の酸素分圧を上昇させ、二酸化炭素分圧を低下させることができます。最近では、鼻マスクや鼻口マスクを用いた人工呼吸療法である非侵襲的陽圧換気療法が主流で、多くの場合睡眠中のみに器械を使用することになります。人工呼吸療法が開始された場合は、自己の判断で中断してはなりません。

生活上の注意

 疲れや風邪などにより、病気が悪化することがありますので、適度な睡眠をとり、手洗い・うがいなどの感染対策が必要です。また、鎮静薬や睡眠薬を内服すると急激に悪化することがあるので注意が必要です。肥満があれば減量し、適正な体重を維持するようにしなければなりません。

予後

 睡眠中の換気補助の継続で、低酸素血症や高二酸化炭素血症が改善されれば長期の生存が望めるようになってきています。