呼吸器の病気

H.呼吸不全

慢性呼吸不全

まんせいこきゅうふぜん

どのような病気ですか

 大気中から酸素を体に取り入れて、体内でできた炭酸ガスを体外に放出するという肺の本来の働きを果たせなくなった状態を呼吸不全と呼びます。通常、動脈の血液中には100mmHg程度の酸素が含まれており、ほとんどが赤血球中のヘモグロビンと結合して体の各組織に運ばれます。血液中の酸素が減少することを低酸素血症と呼びます。体の組織でできた二酸化炭素を十分に体外に放出できないと高二酸化炭素血症になります。

 動脈血中の酸素分圧が60mmHg以下になることを呼吸不全と定義しています。二酸化炭素分圧の増加を伴わない場合(45mmHg以下)をI型呼吸不全、45mmHgをこえる場合をII型呼吸不全と呼びます。このような呼吸不全が1か月以上続く状態を慢性呼吸不全といいます。慢性呼吸不全を引き起こす肺の病気には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症、間質性肺炎、肺がんなどがあります。肺だけではなく、筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーなどの神経や筋肉の病気でもおこることがあります。

どのような症状ですか

 低酸素血症による息切れ(呼吸困難感)が主な症状です。軽症の場合は坂道や階段でのみ息切れ(労作時呼吸困難)を自覚します。重症になると身の回りのことをするだけで息切れを感じて、日常生活が困難になります。その他の症状は原因となっているそれぞれの病気によります。高二酸化炭素血症が進行すると、頭痛や血圧上昇、羽ばたき振戦、意識レベルの低下などがみられますが、ゆっくりと病気が進行した場合は症状に乏しいこともあります。

どんな治療法がありますか?

 慢性呼吸不全の治療は大きく分けて、1.在宅酸素療法、2.換気補助療法、3.呼吸リハビリテーションがあります。その他、原因となっている疾患に対する治療が必要です。

  1. 在宅酸素療法
     大気中の酸素濃度は約20%ですが、この酸素濃度では十分に血液中の酸素を高めることができなくなった慢性呼吸不全の患者さんでは、濃い酸素を吸入することで血中酸素分圧を保つことができます。自宅でも酸素を吸入することが可能であり、在宅酸素療法(HOT)と呼ばれています。HOTでは自宅に設置した酸素供給器(酸素濃縮器や液体酸素タンク)からカニューラと呼ばれる細長いチューブをとおして酸素を吸入します(資料1)。酸素濃縮器は空気中の酸素と窒素を分離し、酸素のみを患者さんへ供給することができます。液体酸素も使用可能ですが、ほとんどの場合で酸素濃縮器が使用されています。携帯用酸素ボンベを使うことで外出も可能です。最近では比較的軽量な携帯型酸素濃縮器も使用できるようになり、充電さえ行えば長時間の外出も可能となっています。現在、適応基準を満たせば、在宅酸素療法は健康保険が使えます。

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  2. 換気補助療法
     動脈血中の酸素が少ない場合は酸素吸入で対応することができますが、二酸化炭素が増えてきた場合は酸素療法のみでは不十分であり、機械の力を借りて呼吸の補助を行う必要が生じます。従来の人工呼吸は気管の中に管を入れなければできませんでした。これでは、声を出すことができなくなりますし、在宅療養や長期間の管理が難しくなります。しかし最近では、非侵襲的陽圧換気(NPPV)と呼ばれる特殊なマスクを装着して行う人工呼吸の方法が進歩しています(資料2)。鼻や顔に密着したマスクから、設定した圧力で肺の中に空気を送り込む方法です。このような方法により二酸化炭素が増えている慢性呼吸不全の患者さんに対して気管に穴を開けなくても在宅で対応することができるようになってきています。

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  3. 呼吸リハビリテーション
     日常生活の指導、運動療法、栄養指導、肺理学療法などを含めた多職種による包括的呼吸リハビリテーションが行われます(資料3)。これによって慢性呼吸不全患者の生活の質(QOL)や日常活動度(ADL)を改善させることが可能と考えられています。

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