呼吸器の病気

G. 胸膜疾患

胸膜炎

きょうまくえん


 肺の表面をおおう胸膜に炎症が生じると、浸出液が肺内から胸膜を通り抜けて胸腔内へ移動し、胸水が生じます。このために胸痛や呼吸困難などの症状が現れる疾患を胸膜炎といいます。原因としては感染症や悪性腫瘍が多く(表1)、罹患率は地域により異なります。米国では肺炎随伴性胸水と悪性腫瘍に伴う胸水(癌性胸膜炎)が多く、年間の罹患数は各々約30万人および約20万人と報告されています。日本では癌性胸膜炎と結核性胸膜炎が多く、全体の60~70%を占めます。

表1 胸膜炎の主な原因
原因 主な疾患名
感染症 細菌性胸膜炎・肺炎随伴性胸水、結核(結核性胸膜炎)
悪性腫瘍(癌性胸膜炎) 肺がん、転移性腫瘍(乳がんなど)、悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫
その他 膠原病・血管炎(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、家族性地中海熱)、肺塞栓症、卵巣腫瘍、薬剤、アスベスト(石綿)ばく露

 感染症の場合は胸痛を伴う発熱(図1)、悪性腫瘍の場合は呼吸困難が主な症状です。診断は胸水や胸膜の一部を採取して検査することで行います。治療の中心は原因に対する治療であり、感染症の場合は原因病原体に有効な抗菌薬を、悪性腫瘍の場合は有効な抗がん剤を投与します。胸水量が多い場合は胸水を体外に抜く処置を併用します。癌性胸膜炎の場合はさらに胸膜を癒着させる処置(胸膜癒着術)を行う場合があります。主な危険因子は、感染症の場合は糖尿病・大量飲酒・喫煙、肺がんの場合は喫煙です。感染症の治療成績は一般に良好ですが、悪性腫瘍の場合は概して不良です。

図1 細菌性胸膜炎の一例

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