呼吸器の病気
E. 腫瘍性肺疾患
転移性肺腫瘍
てんいせいはいしゅよう
概要
肺は体に必要な酸素をとり込むための全身の血液が循環する臓器で、微細な網目構造になった豊富な毛細血管が血液のフィルターの役割をしています。このため他の臓器にできたがん細胞が血流にのって流れてくると肺でひっかかりやすく、肺に転移が起こりやすいのです。心臓から送り出された血液は、全身を巡ってから肺に戻ってくるため、各臓器の多くのがんが肺に転移しやすいことになります。こうして種々のがんの転移として肺に腫瘍(できもの)が形成された場合を「転移性肺腫瘍」といいます。
疫学
肺に転移するがんとしては、結腸・直腸がん、乳がん、腎がん、子宮がん、頭頚部がん、骨・軟部悪性腫瘍、膀胱がん、胃・食道がん、肝がん、膵がん、卵巣がんなど実に様々です。転移の起こる経路には、(1)血行性転移といって、他の臓器のがんからこぼれ落ちたがん細胞が血管の中に入り込み、血液の流れに乗って肺で引っかかって定着する経路、(2)リンパ行性転移といって、他の臓器のがんからがん細胞がリンパ管の中に入り込み、リンパ液の流れに乗って肺のリンパ節にたどりつく経路、(3)経管腔性転移(経気道性転移)といって、主に肺にできたがんが、気道の中を空気の流れに乗って肺のほかの部分にたどり着く経路があります。このうち転移性肺腫瘍をきたす経路は、ほとんどが(1)の血行性転移だといわれています。
症状
通常、血流を介した転移性肺腫瘍の場合、自覚症状は乏しく、原発腫瘍(元の臓器のがん)の検査中や経過観察中に撮影された胸部エックス線画像あるいはCT検査によって発見されることがほとんどです。一方、肺に転移したがんが放置されたままであったり、転移したがんが気管支に進展したり、気管支壁に転移したときにはせき、血の混じったたん、喘鳴、息切れなどの症状が現れることがあります。
検査
胸部エックス線やCTで発見されます。胸部エックス線画像では様々な形をとりますが、多くは多発性(数が多いこと)です。また、別の臓器にがんが発見され、全身CTやPET検査を行った際に発見されます。
治療
治療方針は原発腫瘍ごとに異なります。多くの方は進行がんであることが殆どで、抗がん剤の治療(化学療法)が選択されることが多くなります。近年、従来の抗がん剤とは異なる薬として分子標的治療薬が開発され、単独あるいは従来の抗がん剤と組み合わせて用いられ、治療効果が進歩してきています。転移性肺腫瘍は、元の臓器のがんの性格を受けついでいることが多いので、抗がん剤や分子標的治療薬も元の臓器のがんの治療薬が使われます。最近日本でも増加している結腸・直腸がんでは、ベバシズマブという分子標的治療薬と抗がん剤の組み合わせが有効で、この治療が効かなくなってもセツキシマブという薬があります。従来、肺に転移してしまうと有効な薬が少なかった腎がんや肝がんにも分子標的治療薬が開発されました。さらに前立腺がんなどの肺転移にはホルモン療法が非常に有効な場合があります。また、元の臓器のがんが切除されていて肺以外に再発がないこと、すべての転移巣が切除可能であることなど、いくつかの条件を満たせば手術が行われる場合もあります。結腸・直腸癌では、他の臓器に転移がなく、肺の一部を切除しても生活機能上特に支障がない場合は手術で取り除く方法がありますが、転移の個数や転移の場所、体力で慎重な判断が必要です。まずは、専門医にご相談ください。
治療費の軽減施策
高額療養費制度により、高額ながん治療費を軽減できる施策があります。自己負担分が一定額以上になった場合、負担が軽減されます。詳しくは、各病院のがん相談センターまたは相談員にお尋ねください。
生活上の注意
肺がんと同様、規則正しい食生活、感冒など感染に注意が必要です。