呼吸器の病気
D. 間質性肺疾患
放射線肺臓炎
ほうしゃせいはいぞうえん
概要
胸部にできたがん(肺がん、食道がん、乳がん、悪性リンパ腫など)に対して行われた放射線治療による肺の障害が原因で起こる肺炎です。細菌やウイルスの感染によるものではありません。傷害された肺組織では主に肺胞の外(間質)に炎症が引き起こされ、最終的には肺の線維化をきたします。
疫学
程度の差はありますが、一定以上の放射線の線量を超えると起こります。放射線治療中から終了後6ヶ月以内に起こりやすいといわれています。抗がん剤と放射線を同時併用して治療した場合や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症などの肺の持病があると発症する可能性が高くなります。
発病のメカニズム
放射線によって肺組織、特に肺胞や肺血管の細胞が傷害されることによって発症するといわれています。傷害された細胞ではDNAが損傷を受け、これらの細胞から炎症を誘発する物質(サイトカイン)が放出されます。このようにして主に肺間質に炎症が起こり、その修復機転として肺の線維化をきたします。
症状
息切れ、せき、発熱などの症状で発症しますが、無症状の場合もあります。発熱は通常軽微ですが、時に高熱を呈することもあります。症状は緩やかに進行することが多いのですが、重症例では急速に悪化することがあります。
診断
放射線治療後に、胸部エックス線や胸部CTなどの画像で、放射線を当てた部分(照射野)に一致した領域に肺の構造と無関係な直線状の陰影がみられることにより診断します。時に照射野以外にも陰影が認められたり、肺の容積減少がみられることもあります。診断の上では、同じような肺の陰影を呈する他の病気を除外することも重要です。
治療
無症状や軽症の場合には経過観察や対症療法のみで自然軽快します。息切れ、せきなどの症状が進行する場合にはステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)を使用します。重症例や進行した症例では、酸素投与など呼吸不全に対する治療が必要になることもあります。
生活上の注意
放射線治療中あるいは放射線治療後に息切れ、せき、発熱などの症状が出た場合には、すぐに主治医にご相談ください。
予後
放射線肺炎の多くは病変が限局性(陰影が照射野のみにみられる)の軽症例であり、一般的に予後は良好です。ただし、肺炎が起こった範囲が広いときには重篤な状態となり、死亡される方もいます。
参考文献
- 日本呼吸器学会編集.新呼吸器専門医テキスト.各論 I.気道・肺疾患.7.薬剤、化学物質、放射線による肺障害.F.放射線肺炎.南江堂, 396-397, 2015.
- 斉藤直樹,江口研二.呼吸器疾患最新の治療.X.医原性肺疾患.2.放射線性肺臓炎.南江堂, 364-366, 2013.