呼吸器の病気
D. 間質性肺疾患
特発性間質性肺炎
とくはつせいかんしつせいはいえん
概要
肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできています。間質性肺炎は、肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなるため(線維化)、酸素を取り込みにくくなる病気です。間質性肺炎の原因は様々ですが、原因不明のものを特発性間質性肺炎(IIPs)と総称します。IIPsは主要な6つの病型、稀な2つの病型および分類不能型に分類されます。
疫学
IIPsのなかでは特発性肺線維症(IPF)が80~90%と最も多く、次いで特発性非特異性間質性肺炎が5~10%、特発性器質化肺炎が1~2%程度です。わが国におけるIPFの調査では、発症率が10万人対2.23人、有病率が10万人対10.0人とされています。IPFは50歳以上の男性に多く、ほとんどが喫煙者であることから、喫煙が「危険因子」であると考えられています。
発病のメカニズム
IIPsの原因は不明ですが、複数の原因遺伝子と環境因子が影響している可能性が考えられています。また、IPFは未知の原因による肺胞上皮細胞(肺胞壁の構成細胞)の繰り返す損傷とその修復・治癒過程の異常が主たる病因・病態とされており、肺胞上皮細胞の機能に関与する遺伝子異常が注目されています。
症状
初期には無症状のことが多く、病状がある程度進行してくると動いた時の息切れや痰を伴わないせきを自覚します。
診断
問診、身体診察に加えて、胸部エックス線や胸部CT(図1、図2)、呼吸機能検査、運動時の血液中の酸素の量の低下の割合などから病状を評価し、病型の分類を推測します。気管支鏡検査により肺胞の洗浄検査等を行うこともあります。最も正確な診断は肺の組織検査によって行われますが、全身麻酔による手術を必要とするため、患者さんの状態によって施行すべきか検討します。
図1 IPFでは肺の下の方を中心に蜂の巣状に肺が変化しています(蜂巣肺)
治療
病状がある程度進行したIPFでは、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)により病気の進行を緩やかにできる場合がありますが、効果には個人差があります。その他の病型のIIPsでは、多くの場合ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)や免疫抑制剤が適応となります。病気が進行すると呼吸不全となり酸素吸入が必要になることもあります。
生活上の注意
風邪などをきっかけとして急激に病状が悪化全体に蜂の巣状に変形していますし、非常に致死率の高い状態になることがあります。このようなことを防ぐために、日常の手洗い、うがいを徹底するとともに、肺炎やインフルエンザのワクチンを受けておくことが推奨されます。
予後
IPFは一般的には徐々に肺の線維化が進行していく病気で、平均生存期間は欧米の報告では診断確定から28~52ヶ月、わが国の報告では初診時から61~69ヶ月とされていますが、病状の経過は患者さんによって様々です。特発性非特異性間質性肺炎や特発性器質化肺炎は一般に治療がよく効きますが、中には徐々に悪化していく場合もあります。
参考文献
- 日本呼吸器学会編集.新呼吸器専門医テキスト.各論 I. 気道・肺疾患.5. 特発性間質性肺炎.南江堂,361-380, 2015.
- 貫和敏博,杉山幸比古,門田淳一編集.呼吸器疾患最新の治療.VIII. 間質性肺疾患.南江堂,315-325, 2013.
- 難病情報センターHP.特発性間質性肺炎.https://www.nanbyou.or.jp/entry/156