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肺年齢に関するステートメント

2019年12月
日本呼吸器学会肺生理専門委員会

 「肺年齢」は、2006年度~2007年度の日本呼吸器学会肺生理専門委員会のもと、肺年齢普及推進事務局が中心となって作成し広く普及したコンセプトである1)。その目的は、呼吸器疾患に対する意識を「年齢」という身近な指標を用いることで高め、一般の方々に肺の健康ならびに呼吸器疾患の予防と治療の重要性を認識して頂くことにあった。特に、本邦ではおもに喫煙習慣により発症し、呼吸器の生活習慣病として位置付けられる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の早期発見、早期治療や禁煙指導に向けて用いられてきた。しかし、「肺年齢」が作成されてから約12年の歳月が経過したこと、以前よりいくつかの問題点が指摘されていたこと、LMS法による日本人のスパイログラム新基準値が使用されるに至ったことなどから、学会として新たなステートメントを提出する。
 「肺年齢」は、2001年に日本呼吸器学会肺生理専門委員会が発表した「日本人のスパイログラムと動脈血液ガス分圧基準値」2)をもとに、性別、年齢、身長から算出される1秒量の正常基準値を推定する回帰式を応用したものである。具体的には、性別に基づき身長と1秒量の実測値を計算式に代入し、逆算された年齢を「肺年齢」として実年齢と比較する手法である。しかし、1秒量を推定する回帰式の特性から、健常者の約半数において「肺年齢」が実年齢よりも高くなること、同年齢の健常者でも1秒量の測定値にはばらつきがあり、許容すべき年齢範囲が考慮されていないことが問題であった3, 4)。さらに、日本人のスパイログラム基準値については、LMS法による新基準値が2014年に発表され、日本呼吸器学会としての公式見解もステートメントとして発表されている5, 6)
 2014年のLMS法によるスパイログラム新基準値をもとに、従来の「肺年齢」に代わる「新肺年齢」コンセプトを導入する必要性があることは認めるものの、現時点で使用されている機器への修正はきわめて困難と思われる。日本呼吸器学会としては、「肺年齢」が実年齢とどのくらい乖離していれば異常とするかなどにこだわることなく、これまで通り、あくまでも疾患の啓発や禁煙指導の参考に使用して頂きたい。

注釈

LMS法とは、正規分布しないデータにおいて、おもに年齢に関連する予測式を構築するために使用される統計手法である。Box-Cox変換によりデータを正規分布に近づける歪度(L)を推定し、独立変数の関数として中央値(M)、変動係数(S)を定義する。

参考文献

  1. 日本呼吸器学会 肺年齢普及推進事務局. 肺年齢の利用についてー"肺年齢コンセプト"仕様書 ver.1.1b. 2008年2月13日.
    http://www.hainenrei.net/pdf/hainenrei_shiyousyo_11b.pdf
  2. 日本呼吸器学会 肺生理専門委員会報告(佐々木英忠委員長). 日本人のスパイログラムと動脈血液ガス分圧基準値. 日呼吸会誌 2001; 39: S1-S17.
  3. 宮本顕二, 高瀬雅代. 肺年齢の解釈. 日呼吸会誌 2010; 48: 541-542.
  4. 宮本顕二, 高瀬雅代. 禁煙指導における肺年齢の問題点. 日呼吸会誌 2011; 49: 404-405.
  5. 日本人のスパイログラム基準値に対するステートメント.
  6. Kubota M et al. Reference values for spirometry, including vital capacity, in Japanese adults calculated with the LMS method and compared with previous values. Respir Investig 2014; 52: 242-250.

参考ページ

LMS法による日本人のスパイロメトリー新基準値